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未踏クリエーターが語る「技術の未来」

ブロックチェーンの今と未来

「2017 年は仮想通貨元年!」そんなフレーズを見かけた方もいると思います。今年 4 月には法改正があり、仮想通貨が社会で広く受け入れられる土台が整ったといえます。それを見越してか、仮想通貨の代表格であるビットコインは、昨年夏に 1 BTC あたり約 5 万円だった価格が執筆時点で 50 万円前後と、10 倍にまで値上がりしました。

図 1. ビットコインの過去 1 年間の値動き。

図 1. ビットコインの過去 1 年間の値動き。
https://cryptowat.ch/bitflyer/btcjpy/1w より

仮想通貨を裏で支えているのがブロックチェーンとよばれる技術です。もともとは仮想通貨の取引を記録するために発明されたものですが、いまや応用はそれにとどまりません。金融に限らないさまざまな産業分野への応用が幅広く検討されており、多くのスタートアップ企業から政府機関までも惹きつける一大イノベーション分野となっています。

このように高い注目を集めているブロックチェーン技術ですが、その全容を明かすには仮想通貨の説明が欠かせません。そこでまずは仮想通貨の発展の経緯を見ていきたいと思います。

発行体なき仮想通貨

仮想通貨の歴史は 2009 年 1 月 3 日に始まりました。ビットコイン (Bitcoin) が誕生したのです。発明者はナカモト サトシと呼ばれる人物で、発明当時にビットコインを説明した論文に名前を残していますが、正体は謎に包まれています。今でも、著名なソフトウェア工学の研究者や暗号学者などが「実はあの人がナカモト サトシなのでは?」と噂されるものの、真偽の程は定かではありません。

ビットコインは、仮想通貨と表現される通り、お金とほぼ同じ機能を持っています。すなわち、誰かに送金したり誰かから送金してもらったりすることができます。たとえば飲み会で幹事に 0.01 BTC (ビットコインの単位: BTC) 送金すれば、だいたい 5,000 円くらい支払ったことになるという調子です。また貯蓄することもできます。銀行の役割を果たす仮想通貨取引所に預けるか、ウォレット (財布) というソフトウェアを使って手元にビットコインを保存しておくことになります。そして物やサービスの購入にも利用できるようになりつつあります。今年春から大手家電量販店がビットコインでの支払いを受け付けるようになって、一大ニュースになりました。

一方で、今までのお金と違うところもあります。まず「仮想」からわかるとおり、物としての形がありません。ビットコインでは「誰がいくら持っているのか」という情報は、形ある貨幣の所持で判断されるのではなく、データとして記録された数値でしかないのです。そしてさらに大きな違いは、価値を担保する人がいないということです。これには大きな意味があります。

たとえば、私たちが日ごろ使っている日本円は、日本政府がその価値を担保しています。したがって、日本全国どこの銀行に行っても預金したり、海外の通貨に両替したりできますし、お店で物を買うこともできます。しかし、極端な例ですが、政府が法律を変えて「明日から現行の日本円をやめます!」となろうものなら、お財布の中の諭吉さんはただの紙切れになってしまうことでしょう。嗚呼。

ビットコインでは、そのようなことがありません。ビットコインを発行する中央組織は存在しませんし、誰もビットコインの価値について責任を持っていないのです。それにもかかわらずお金と同様に扱うことができるのは、ビットコイン利用者各々がビットコインの仕組みに価値を見出し、ビットコインの台帳自体に信頼を置いているからです。

さて、ここまでビットコインに限定して説明をしてきましたが、世の中の仮想通貨はビットコインだけではありません。実は現在、知られているだけで世の中に 900 近い仮想通貨が存在しており、その数はこれからも増えることでしょう。ビットコインの仕組みを改造したさまざまな仮想通貨が、爆発的に誕生しているのです。しかしそれでも、すべての仮想通貨に共通していえることがあります。それは、ブロックチェーン技術を用いている、ということです。

図 2. 市場評価額が高い仮想通貨の上位 5 位。

図 2. 市場評価額が高い仮想通貨の上位 5 位。
https://coinmarketcap.com/currencies/views/all/ より

仮想通貨を支える技術

仮想通貨が通貨として機能するには、ある一定の仕組みが必要です。たとえば、支払う側はいつでも支払いができること、また受け取る側は確かに自身が受け取ったと証明できること、です。先ほど紹介したビットコインの生みの親 ナカモト サトシ氏は、誰もが自由に検証することができる透明性を備え、また自分の所持金について自分だけがいつでも送金処理を書き込める台帳の仕組みをつくることで、これを可能にしました。この仕組みこそが、ブロックチェーン技術だったのです。

ブロックチェーン技術の中核をなすのは、その名もずばりブロックチェーンとよばれるデータの集合体です。その実体はブロックと呼ばれるデータの単位からなっており、ブロック同士がまるで鎖 (チェーン) のように一本に繋がった構造をとっています。各ブロックには個別の送金取引を記載したトランザクションと呼ばれるデータが含まれており、ブロックとトランザクションの中身はそれぞれ、暗号理論によって改竄から保護されています。そして時間の経過とともに、世の中で新たに行われた取引がまとめられたブロックがどんどん作成され、ブロックチェーンの末尾につながっていきます。

図 3. ブロックチェーンの模式図

図 3. ブロックチェーンの模式図

平たく言えば、ブロックチェーンは今までに行われたすべての送金取引をまとめた元帳のようなもので、その 1 ページに対応するのがブロック、そしてそのページ内の各 1 行分がトランザクションで、それぞれに送金者、受取人、金額の記載があって送金者による印鑑が押されているようなイメージです。したがって、ブロックチェーンが表しているのは「誰から誰にいくら送金があったか」という台帳そのものであり、この台帳を最初から読んでいけば「今、誰がいくら持っているのか」というのを知ることができます。

一方で、仮想通貨で取引するためには、このブロックチェーンのデータ以外に、自分のアドレスとそれに対応する秘密鍵というデータが必要になります。口座番号と暗証番号に似ています。もちろん最初はアドレスに入っている残高は空なのですが、誰かが自分に向けて送金したトランザクションがブロックチェーンに記録されれば残高が増えます。逆に自分が誰かに送金するには、秘密鍵を使ってトランザクションを作成し、そしてネットワーク経由でマイナーと呼ばれる人に送信します。マイナーは一定時間おきに、世界中から集まったトランザクションを特殊な計算処理によってブロックにまとめて、全世界の仮想通貨利用者に向けて配布します。

ここまでがブロックチェーン技術の概略ですが、実際にはさらに多くの要素が複雑に絡み合って、絶妙な力学で動いています。しかし驚くべきことに、改竄を防ぐためにデータを鎖のようにつなげるアイデアや、その中で登場する暗号理論、そしてネットワーク上で効率よくブロックを配布する仕組みなど、それぞれは以前から存在していたものです。ブロックチェーン技術の素晴らしさは、多くの技術要素をうまく組み合わせ、通貨としての利用に耐えうるシステムを築いたことにあるのです。

ブロックチェーン技術の将来

ブロックチェーン技術なくして仮想通貨が実現しなかったのは言うまでもありませんが、仮想通貨なくしてブロックチェーン技術の発展がなかったのもまた事実です。では仮想通貨が社会で認知され始めた今、これからブロックチェーン技術はどこに向かって行くのでしょうか。筆者は、ブロックチェーン技術の発展には 2 つの方向性があると考えています。

ひとつはブロックチェーン技術自体の進化です。世界中で研究開発が活発に行われ、次々と新たなブロックチェーンが作り出されています。そのような例のひとつが Ethereum (イーサリアム) です。Ethereum は、ビットコイン同様に仮想通貨を扱うブロックチェーンですが、その構想に「世界計算機」という表題を掲げ (ビデオ )、ブロックチェーン上にプログラムを記述することができるようにしました。その結果、仮想通貨による資金の調達や再分配のルールを記述した DAO (非中央集権型自律組織) と呼ばれるプログラムが作られ、ブロックチェーン上に株式会社のような仕組みをも作れるようになりました。最近では IPO (株式上場) をもじった ICO = Initial Coin Offering とよばれるスキームが行われるようになり、新たな資本調達プラットフォームとして注目されています。このような革新性から、現在ビットコインの次に有名かつ市場評価額が高い仮想通貨になっています。

そのほかにも例えば、ブロックチェーン上のトランザクションを暗号化して利害関係者以外に秘匿し、資金移動がまったく追跡できないようした仮想通貨 Zcash や、ビットコイン ネットワークを高速化する目的で開発が進められているブロックチェーン拡張技術、複数の仮想通貨のブロックチェーン間での決済を可能にするプロトコル等、日々新たな技術が生まれています。

もうひとつは、仮想通貨にとどまらないブロックチェーン技術の産業応用です。これまで見てきたとおり、ブロックチェーン技術を用いれば参加者が一定のルールのもとで共同運営する改竄不可能な台帳を構築することができます。これを活かし、さまざまな分野での応用が検討され始めているのです。たとえばエネルギー分野においては、各家庭における電力使用量の記録、仮想通貨による使用料金の徴収、さらには電力小売や自家発電による電力売買までを一体化してブロックチェーン上で行う取り組みが米国で検討されています。また医療分野では、電子カルテ用ブロックチェーンを構築することで、関係医療機関との連携、患者自身への治療経過情報の公開、診療報酬の請求、個人情報を秘匿したままの研究者への臨床情報の開放、といったことを可能にしようというアイデアもあります。そして、民間にとどまらず政府機関もがブロックチェーン技術に着目しています。政府機関では、登記、徴税台帳、電子投票など、人や組織や資産を管理するさまざまな台帳が存在していますが、それらすべて一切の改竄が許されず、透明性が要求され、変更記録を逐一残していくことが求められる性質のものです。これはブロックチェーン技術との親和性が非常に高く、もっぱら政府機関向けのブロックチェーン ソリューションに注力したスタートアップが存在するほどです。

最後に面白い例を紹介しましょう。各国の機密情報をまとめた Web サイト WikiLeaks を創設したジュリアン・アサンジ氏は、昨年秋から死亡説が囁かれていたのですが、今年 1 月にインターネット上のビデオ中継に姿を現しました。その際、視聴者から本当に生存していること (つまり録画映像ではないこと) の証明を迫られました。そこでアサンジ氏がやったのはビットコイン ブロックチェーンの最新のデータを読み上げるというものでした。まさに中央集権によって統制されることのない仮想通貨ブロックチェーンをうまく活用したものであり、アサンジ氏の状況を考えれば非常に合理的なものだったと筆者は思います。ここ からビデオが見られます。(ちなみにアサンジ氏は最初に読み間違いをし、視聴者のチャットで "DEAD!" 「死んでる!」と言われる冗談のような場面もありました)

まとめ

ここまで、ブロックチェーン技術が生まれたきっかけ、その仕組み、そしてこれからの発展の方向について考えてきました。しかし、ここで触れた内容はその全容のほんの一部でしかありません (冒頭で「全容を明かす」と言っておきながらすみません...)。

仮想通貨とともに生まれたブロックチェーン技術は発明からすでに 8 年半がたち、いまや社会の基盤に影響を与えるまでになりました。しかし、ブロックチェーン技術そのものは、けっして突如無から生まれたものでなく、とてつもなく難解な新技術というわけでもありません。あくまで今まで存在していた要素技術の集合であり、その緻密な組み合わせの妙によってなされた結晶なのです。だからこそ、新たな要素を付け加え、また応用範囲を変えてみるといった取り組みが活発に行われており、その競争の勢いは今もとどまるところを知りません。

以前からブロックチェーンという言葉を知っていた読者にも、この記事で初めて知ったという読者にも、そのエッセンスが少しでも伝われば嬉しく思います。そして、この記事を読んでブロックチェーン技術に興味を持つ人がひとりでも増え、そして願わくは新たなイノベーションへのきっかけにならんことを。

竹井 悠人
株式会社Basset 代表取締役

東京大学大学院コンピュータ科学専攻修了。2013年度の未踏事業に「モバイル端末に特化した自動スケジューリング プラットフォーム」で採択。
その後、複数のスタートアップ事業を経て、セキュリティ事業を行うTKIを設立。 現在は仮想通貨取引所事業を行う株式会社bitFlyerにてCISOを兼任。

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