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シリコンバレーの起業家が語る「これからのエンジニア」|柴田 尚樹 氏(前編)

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Co-Founder 柴田尚樹 氏 (Naoki Shibata, Ph.D.)

1981年生まれ。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略専攻 博士課程修了。2006年に楽天株式会社入社。同社の執行役員、東京大学助教を経て、スタンフォード大学の客員研究員として渡米。米国Paypal出身のDave McClure氏が設立したファンド「500startups」の出資を受け、シリコンバレーにてAppGrooves社を設立。AppGrooves社が提供するアプリケーションは、ユーザーが現在利用しているiPhoneアプリの情報を元に、独自のアルゴリズムを駆使して、そのユーザーにフィットする新たなアプリケーションを紹介することができ、大きな注目を集めている。

そもそも、どのようなきっかけでシリコンバレーに来ることになったのですか?

東京大学在学中に海外研修がありまして、ボストン、シアトル、シリコンバレーを回ったことがあったんですね。その時から、ほぼ直感的に「シリコンバレーで何かやりたい」と感じていました。インターネット産業は、ほとんどここからスタートしているじゃないですか。シリコンバレー以外から出ているネット企業の方が例外、という位なので。

それで、大学院卒業が迫った時に、スタンフォード大学に研究員として行けるチャンスがあったので、「これは、いいタイミングだ」ということでシリコンバレーに身を置いたのがきっかけです。もともと、ネットワーク分析が専門だったんですけど、スタンフォード大学に来てからは、自然言語処理と機械学習も本格的に勉強しました。

柴田さんがスタンフォード大学で研究していたことは、現在のサービスや事業にどのような影響を与えていますか?

大学院でアカデミックにやったことと、サービスを開発し、事業を起こしていることには、実はあまり密接な関係はないですね。

ProblemとSolutionの組み合わせがあるとして、こちらでは「Problemが面白くないと、ダメだ」とよく言われます。投資家へのPitchの場でも、「Solutionだけを先に言うな、どの問題を解いているのか先に教えろ」というプレッシャーがあります。こちらでは解いている問題がユニークでないと認められないですね。

典型的にダメなパターンが、「コマーシャライズリサーチ」というもので、「自分の研究の延長線上でサービス作りました」みたいなのが最悪なんですよ。

だから、僕自身もアカデミズムの延長線上で事業を起こしたわけでは決してなくて、僕自身が実際に身の回りで困っていることを、テクノロジーで解決したいと思ってやっている話ですから、アカデミズムに身を置いていたこととは直接関係ないんです。使っているのも、別の脳ですね。才能としては全く別のものだと思います。

ドクターまで行きながらも、僕自身が「研究職に向いていないな」と感じたのは、研究職って、凄くロングタームで物事を考えないといけないんですよ、10年とか20年とか。でも僕は、来月売上が上がる方が楽しいんです(笑)。中長期的に何かしたいというより、凄いスピードでガッと物事を動かす方が向いているんでしょうね。

シリコンバレーで実際に事業をやってみて感じていることは何ですか?

新しいものに寛容ですよ、ものすごく。僕は、よく聞かれるんです。「何で日本に帰らないでここでやるの?」って。いつも答えるのが、何かトンがったことをやる(Hackする)と、日本では「ダメだ」と言われる。こちらだと、「もっとやれ」と言われる。どちらの環境を選びますか?という話なんですよ。僕は、子供のころから、いたずら好きでしたからね。

こちらの連中は、ある意味無責任に「もっとやれ」「どんどんHackしようぜ」って言います。別に僕の人生を背負ってくれる訳じゃないんですけどね(笑)。それが凄く大きいですね。

ベンチャー企業・スタンフォード大学・Sand Hill Roadの名門VC。この3つを掛け合わせて事業をされているな、と。

まず前提として、スタンフォード大学の肩書が使えたのは大きかったですね。アメリカ人、特にシリコンバレーの人達から見たときに、東京大学の助教、楽天の執行役員、スタンフォード大学のコンピュータサイエンスのリサーチャー、どれが一番“効くか”という話なんです。圧倒的にスタンフォードですよ、こちらでは。投資家にしてもそうです。まず最初に「お前誰だ?」となった時に、スタンフォードのリサーチャーだってことで、スムースに話が進みますからね。

資本の点でも、シリコンバレーの資本を先に入れるというのは最初から意識していました。こちらは投資家がかなり力を持っています。

日本からお金をいっぱい持ってきちゃうと、こちらの投資家が入りづらいんですよ。だから、僕は、日本の資本を入れない状態で来たんです。僕のバックグラウンドからすると、本当は日本から調達する方が楽なんです。でも、既に日本の資本が入っている会社は、こちらの投資家が嫌がられる可能性がありますからね。そういうわけで、日本からの出資をいくつか断ったこともあります。つらいですよ、お金出してくれるのに、断るんですから(笑)。でも、こちらで出資を受けられなかったら、事業を始めなかったかもしれないですね、本当に。それくらい、出資を受ける順序にはこだわりました。

エンジニアに対する見方で、日本とシリコンバレーの違いを感じますか?

こちらでは、決定的にエンジニアが偉いということですね。MBAなんかよりもエンジニアの方が格段に偉いんです。待遇についてもそうです。エンジニアの給与がかなり高い。根っこにあるのは、「エンジニアが世の中を変える」、ということを皆が知っていることなんです。日本のエンジニアも、そういう理解がある会社で働いた方がいい。「企画部門の人が何かを決めて、それをエンジニアがただ作る」、そういう時代じゃないですよね、もう。

日本の会社でも、エンジニアの価値を正確に理解している会社が多く出てきている感じはしますよ。僕自身も、楽天時代に、エンジニアによく言っていました。「営業マンは、頑張れば売上を1.5倍位にはできるかもしれない。でも、エンジニアは、サービスを生み出して10倍や100倍にできるんだから」って。これ、今でも本当にそう思っています。

世界レベルで見て、日本のエンジニアのレベルはどうなのでしょうか。どれ位通用するものなのでしょうか?

通用しますよ。十分、いけると思います。

日本は、コンピュータサイエンスの教育水準は結構高いですよ。もちろん、スタンフォードと同水準、という訳にはいかないですけど、十分通用するレベルだと思います。Googleも東京にR&Dセンターを開けたのは世界でもかなり早いはずです。それは日本の水準が十分に高く、いい人材が採用できるからでしょう。

大学でいうと、東京大学はおそらく世界で20番目位ですよね。東大より教育水準の高いアメリカ以外の大学というのはそんなになくて、アジアでは断トツですし、ヨーロッパと比べても遜色ないと思います。

世界に出ていくという意味では、英語の壁は確かにありますが、正直なところ、エンジニアはどこの国の人でもいいんです。コードの読み書きでほとんどわかりますから。僕自身が人を採用するときにも、多少英語がダメでも、腕のいいエンジニアなら全く気にしません。そういう意味でも、日本のエンジニアには十分可能性があると思います。逆に、営業やマーケティングは英語がネイティブじゃないと雇えないですけどね。

大学でしっかりとしたコンピュータサイエンスを学んでいないと通用しづらいでしょうか?

うーん、やはりどこかでしっかりと基礎を学んでおく必要はありますよね。シリコンバレーのエンジニアはやはりアカデミックなバックグラウンドもしっかりしている人が多い印象です。コンピュータサイエンスでなくても、せめて、電気電子、機械、バイオインフォマティクスだとか、何かしらベースになるものを学んでおいた方が良い気はします。

スクリプト言語でちょこちょこっとコード書くことはできても、深いところ、例えば「アルゴリズムを2倍高速にして」、といったことができないんですよね、基礎がないと。

本当のソフトウェアエンジニアは、先ほど言ったようなバックグラウンドを大学で学んでないと、ちょっとつらいですね。こちらの入社試験では、当然のようにその場でプログラムを書かされますが、例えば、「〇〇アルゴリズムを書いてください」といった感じで始まったりするんですよ。そうすると、そのアルゴリズムを知らないと、その時点で終わっちゃうんですよね。アルゴリズムにも精通していて、コードも書ける、そういう人じゃないと、こちらのトップクラスでは採用されづらいと感じますね。

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